明日は過去の憑きものの正体を探りに

おれが高校生の時にヒットしてたJ-POPをWikipediaで探してみると

・・・等々のタイトルを見つけることができる。当時からラジオっ子のオレとしてはもちろんこの中に知らない曲などないが、当時、実際に購入、もしくは当時わが田舎にもついに開店したレンタルCDショップで借りたことのある曲はというと、おそらく一つもない。友人から借りたものならいくつかあるかもしれんが。
J-Popに興味がなかったわけでも、CDが買えないほど小遣いが少なかったわけでもない。
当時のオレはBilly Joelが好きだった。何がきっかけで好きになったのか皆目思い出せないが、気がついたらすべてのアルバムを集めるに至っていた。今も昔も流行音楽に関する話題というのは、人生の一時期において、まだ仲の薄い他者と自分との間に有意なリンクを見いだし育むことにおいてもっとも手軽かつ汎用性の高い一手段である側面があり、たとえ「商業主義にまみれた道具」との誹りを受けようとも、それが陽の効用をもたらしてきたことは多くの方が認める事実だと思う。しかし当時のオレが生きる周囲5メートルの社会においてビリージョエルの音楽は、そういう類の効用をもたらすものではなかった。ビリージョエルは当時すでに、ずいぶん過去の人だったのである。オレの周りの同年代にビリージョエルを聴いている人など誰もおらんかったし、話題に上ったことすらなかった。でもオレはこの中年の歌を聴いてた。
ところがそんな熱狂も、「River of Dreams」というアルバム以降、アルバムがリリースされなくなり、それにつれて憑かれたような情熱は徐々に冷めていったのだったと思う。
一体、ビリーの何がそんなに良かったのか。皆目わからん、思い出せん。やっぱり何かが背中に憑いていたんじゃないだろうか。

数ヶ月前のまだ暑さの残る夜、ラジオを聴いてると、ビリーが日本へ来る、というようなことをDJが話していた。ほぉ、来るのか。まだ生きていたのか。そういえば昔よく聴いてたよな。まあどうせ「名古屋とばし」の来日やろね、と悪態をついていたんだけど、名古屋にも来るという。しかもそのラジオ番組内で先行予約を受付中という。過去の自分への冷やかし気分で予約電話番号を押してみたところ、あっさりと席がとれてしまった。
いま手元に、そのチケットがある。公演日は明日12月12日、会場はナゴヤドームである。
憑きものが取れてしまって以来、ビリーのライブになど、一生行くことはないと思っていた。そうか、オレは明日ビリーのライブへ行くのか。実感はないし、相変わらず心の躍動もない。
明日は過去の憑きものの正体を探りに行く。