そこで働く理由は何ですか。

先日会社の同期たちと共に、数ヶ月前に転職した元同僚Aを囲んで雑談をした。そこでAに聞いた新職場の体験談はなかなか面白く、職業の選択について考えさせられるものだった。
Aの転職先は世界に名だたる超大手家電メーカーである。製品分野は多岐にわたり、国内に構える工場も幾多を数える。そんな中にあって、彼は全社の財務を担う。
これまでにも、Aとは会って話をする機会が幾度かあって、転職直後の彼からは会社の事業規模がいかに巨大であるか、事業内容がいかにエキサイティングであるか、そして新しい同僚たちがいかにエリートであるかについてなどの話を聞いてはいた。それから日々が経ち、転職から数ヶ月を過ごし、新生活に慣れるにしたがって、旧い職場(=私のいまの職場)への謝意と新しい職場のいびつさを実感するようになったという。
曰く

  • 配属の部署はスーパーエリート集団。東大卒とか海外大学卒とかCPAホルダーとかTOEIC900点とかがザラにいる
    • そしてAは「こんな部署に配属されたことはアカハラだ」と笑いながら語っている。
  • なのに、彼らの置かれている職場環境は、決して良いとはいえない。
    • ノートやホッチキス芯に至るまで、文房具はすべて自前 (前の職場では消耗文具は支給された)。
    • 部屋がとても狭い。各人に与えられたスペースがとても狭い。
    • 掃除の習慣がない。また掃除担当者もいない。気づいた人がその時にささっとやる程度。
    • そんなわけで、室内の空気がいつも淀んでいる。
  • また職場のIT環境の整備も遅れていると思わざるを得ない
    • ノートPCがない。全員デスクトップ
    • だから会議にPCを持参することはない
    • 当然、会議室にプロジェクタやモニタなんて無し。PC使わないので。
    • 会議は、全員が顔をつき合わせてノートを取りながら進められる、効率が悪い。
    • そんな訳で、だれもパワポの使い方を知らない。Aもあまり得意ではないが前職場では使っていたということもあり、使うことはできる。簡単な資料をつくっただけで尊敬のまなざしで見られた。いつの間にかスキルが養われていたのだなぁ、と前の職場に謝意を抱いた。
    • メールシステムが全社で未だに***! (これには驚いた。エンジニアもこの環境だなんて・・・)
  • 福利厚生も決して良いとは云えない
    • 年休が取れない。取れる雰囲気ではない。
    • 対外的にはダイバーシティを大切にしていることをアピールしているが、内実はウソ。やはり女性は苦労を強いられている。
    • 前の職場では充実していた社内講習のようなものが、この職場にはない。

日本の冠たるエリートたちが、劣悪な環境で働きつづけている。何故そこで働き続けるのか、とは問わない。なぜならもう答えを知ってるからだ。
「外の世界(ほかの会社)を知らないから」。
これはおそらく日本の多くのソフトエンジニアが置かれている状況の縮図である。なぜ日本のエンジニアの多くは劣悪な待遇でも働くノデスカ、と海外から思われてているに違いないのである。
この転職は成功だったと言えるか? とAに問うた。
「失敗ではないな。会社の規模と労働環境の良し悪しに相関がないということを確認できたことはひとつの成果だよ。ただ前の職場が良すぎるのか、それとも新しい職場が悪すぎるのか、それはまだ分からない。少なくともいまの会社は日本を代表する大企業だし、ここでしばらく働き続ければ大きな職歴になるだろうから、次の転職先でそれを確認しようと思ってるよ。」
まったくもってAらしい。
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あなたがそこで働く理由は、何ですか。