EQ ― こころの知能指数

もう10年ちかく前に出版された本で、古本屋にて入手。かなり面白く読めた。
EQとはEmotional Intelligence Quotientであり、直訳すると「情動の知能指数」である。IQが「考える知性」であるのに対し、EQとは「感じる知性」である。エリート学生がなぜ銃乱射をしたのか。なぜいじめによる自殺があとを絶たないのか。若者はどうしてキレるのか。こうした事象がすべてEQの概念で説明ができるという。
感情をコントロールする能力と学業成績は別である。IQのたかい者が必ずしも人生の成功者になるとは限らないが、たかいEQは人生に差をつける。かつてベル研にて、並の研究員と優秀研究員について学究テストの結果を比較してみたところ、それほどの差異を見いだせなかった。両者の違いは、職場内にインフォーマルなネットワークを構築しているかどうか、イニシアティブを取れるかどうか、にあったという。これらの能力は、EQに深く関係する。
EQはIQとは違い、訓練することによって向上することができる。著者はとくに、幼少時の情動学習の大切さを説く。親が子どもに教えるべきEQとして、「自分の中にある感情をどのように認識・処理・制御するか」「他人に対してどのように共感するか」「他人と自分のあいだに生じた感情にどう処理するか」ということを挙げる。
陰惨な事件が頻繁に報道される昨今、多くの人が「こころの教育」の不十分さに薄々と気づいていることだろうと思う。教育者が「こころ」をテーマに論じると、ややもすると主観に偏りがちになるが、本書の著者は心理学の心得があり、各々の仮定に科学的な裏付けを加えている点が面白い。
アメリカでは初等教育においてすでに情動教育プログラムを織り込んでいるという。日本はどうなのだろう。