検察審査会体験記 (1/2)

新年度も始まったことだし、そろそろ書いても良いかと思って書いてみる。

実は昨年、とても貴重な体験をした。検察審査会という制度の審査員に無作為抽出で選ばれ、半年間(計12回)、非常勤司法職員である検察審査員として裁判所に通い、検察審査会議に参加した。以降に示すとおり検察審査員に選ばれることはとても稀なため、自分がこの年齢でこの制度を体験することに何か意味があるのではないかと思うところであり、この体験談を記録することにした。

少々長くなると思うので、記事を2回に分けることにした。今回は検察審査会の紹介を中心に、次回は実際に検察審査員を務めたことの感想などを中心に。


追記(2010-05-05): いくつか誤解を招いてしまったようなので、補遺 を起こしました。


検察審査会とは

いきなりWikipediaを引く (検察審査会 - Wikipedia)。

検察審査会(けんさつしんさかい)とは、検察官が独占する起訴の権限(公訴権)の行使に民意を反映させ、また不当な不起訴処分を抑制するために、地方裁判所またはその支部の所在地に設置される、市民11人によって構成される機関。


初回に受けたオリエンテーションでの説明によると、被疑者を起訴するかしないかを決定する権限を持つのは検察だけであり、検察が「不起訴」判定をした案件について、申立人の要求に応じて検察の判定が妥当かどうかを判断するのが検察審査会の仕事なのだそうだ。

検察審査会は11名 (+補充員数名) で構成されていて、任期は6ヶ月。ただし半年毎に全員が入れ替わるということではなく、3ヶ月毎に半数ずつが入れ替わる。つまり、5人ないし6人で構成される単位を「群」とすると、一年の間に4群が入れ替わることになる。

検察審査会を知っていますか

検察審査会という制度、文系学科出身の方はご存じなのかな。私は、学生時代は理工系の学徒であり、現職もエンジニア、私生活でも裁判とは無縁の三十余年を過ごしてきた輩であり、司法の知識はいわば高卒と同等。検察審査会なんて存在は全くもって知らなかった。

拙宅に検察審査員の案内が届いた時期は、ちょうど日本で裁判員制度が開始されようとしていた時期だったため、自分はてっきり裁判員第一号に選ばれたものだと思っていた。「検察審査員」なんて無名で地味な制度のほうだと知って、ちょっと残念に思った。

制度の知名度が高いか低いか、というのは参加する者にとって割と大切な問題であると思う。これについては後述。

検察審査員(+補充員)に選ばれる確率

余談となるけども、検察審査員とその補充員に選ばれる確率はどれぐらいか、計算してみる。

1つの検察審査会で、一年間に審査員として任命される人数は、22人。私が住む名古屋管区には2つの検察審査会があるので、名古屋管区内 で一年間に審査員として任命される市民は、44人。

名古屋市 - Wikipedia 」によると、名古屋市有権者数は175万人。周辺地域もあわせると、母集団は大体200万人ぐらいかな?

この仮定を元にすれば、ある年に検察審査員として選ばれる確率は、単純に44/200万。大体5万人に1人。年末ジャンボ宝くじで50万円および1万円が当選する確率がそれぞれ10万分の1、1000分の1と言われるので (出典: http://www.naxnet.or.jp/~rider/koramu/part1/jambo.htm#samja20) 、まあ大体25万円〜50万円相当の価値かな (どんな計算だ・笑)。 審査員よりも宝くじに当たった方が良かったよねー、なんて話を他の審査員としてましたけど。

ちなみに、ある名古屋市民(管区の住民)が一生(20歳〜70歳と仮定)のうちに検察審査員に選ばれる確率をざっくりと計算すれば、

1-\Bigl(\frac{2 \times 10^6 - 44}{2 \times 10^6}\Bigr)^{70-20}
(Wolfram|Alphaによる計算) http://www.wolframalpha.com/input/?i=1+-+%28%282e6-44%29%2F2e6%29%5E%2870-20%29

より、約0.10%。つまり名古屋(管区)で死ぬまでに検察審査員を経験できるのは、約1000人に1人ということになるのかな。オレなんぞが、1000人に1人の選ばれし者。

実際の活動内容とか、雰囲気とか

大きな母集団における無作為抽出とはたいしたのもので、検察審査員として選ばれた方々は性別、年齢、職業が見事に多様だ。審査会出席のために単身赴任先から駆けつける人あり、丸の内のオフィスからスーツ姿で参加する人あり、また作業着で参加する職人さんあり、専業主婦あり。普段の生活では関わる機会のない属性の人とテーブルを囲むことができるというのは、なかなかに刺激的な体験だった。

審査会は、2週間に一度の頻度で招集される。平日に招集されるため、普段の仕事を休んでの参加となる。私の職場では、審査会参加の日は公休扱いとなった。

ちなみに、検察審査員は「公務」なので、ちょっとしたお給金も頂ける。

一回の会議時間は大体3時間半ぐらいで、流れはおよそ次のとおり。

  1. 案件の概要説明
  2. 案件の資料精読
  3. 審査員どうしで意見交換
  4. 決議
  5. 署名
  6. (残り時間があれば) 次の案件の説明、資料精読

これらの作業のうち、会議時間の大部分を占めるのは「資料精読」。

この資料は、申し立ての案件の内容を審査員が理解できるようと、裁判所の検察審査課(?)が事前に準備したもので、不起訴の理由、申立書、陳述書などが含まれるほか、案件によって警察による供述調書、事故の検分報告書、果ては登記証が含まれることもある。さらに、審査員の法律知識を補充するために、過去の類似案件の判例や解説が付加されることもある。それらをまとめると、一案件分の資料はA4サイズが大体100ページ程度のボリュームになるが、案件によってはその2倍を超えることもあった。なお、これらは個人情報のため、当然ながら持出は厳しく禁止される。

シロートにも理解できるようにアレンジされているとはいえ、これらは司法の公文書である。なれるまでは、余りに堅気な文書を読むのに難儀した。中には精読時間中に舟を漕いでいる審査員も居りましたね (自分も人のことを責めることはできんが)。


(次回に続く)