評判塾講師が塾を閉める理由

中学生の頃、英語塾に通っていた。そこは「難関○×高校合格を目指す・・・」的な受験塾ではなく、学校の教科書の予復習の面倒を見てくれる個人塾だった。先生は昔どこかの大学で英語を教えていた経験があるということだが、まったくそんな大仰なオーラはなく、ふつうの近所のおばちゃんと同じ雰囲気をまとう方だった(失礼だな)。
この塾は近所で評判を集めていて、毎年3学期の次年度準備期間になると定員を上回る入塾希望が殺到していた。受験塾ではないのに、である。いや、受験塾じゃなかったからかもしれない。他の塾とはどこが異なっていたんだろうかと回想するに、この塾では「声に出して発音させること」にもっともプライオリティを置いていたように思う。板書を中心とする学校の授業スタイルとは全く異なり、学習事項を全員で何度も何度も繰り返し発音練習をさせるという方針。主要単語、名詞の複数形、動詞の活用、英熟語、・・・・毎回毎回、何度も発音練習を繰り返すことによって英語の基本を「知らず知らずのうちに」詰め込まれた。思うに、おれがいま独りで海外旅行へふらっと出かけていけるのも、この若き日のインプリンティングの賜物なのかもしれない。いやホンマに先生には感謝しとります、少々おっかなかったけど。
さてこの週末ちょっと小用のため実家に招集がかかったので、イナカに帰省した。その際にこの先生の話を伺う機会があった。
先生は、この英語塾を閉めるのだという。
おれがこの塾を卒業してから十数年が経つ(ギョッ!)とはいえ、先生はまだそんな引退するような年齢ではないことは確かだ。そして近所の評判も相変わらず良好ということだが、なぜ塾をしめるのか。
「―――こどもの、生徒たちのの質が、まったく変わってしまった」
そう先生は仰る。とくに最近、全く無気力なこどもたちが増えているのだという。発音を促しても従おうとしない、そういう子供たちに対して授業をおこなうのはとてもストレスを感じるといい、悩みの末、塾を閉じることに決められたのだそうだ。
この子供たちの現象をゆとり教育の云々と安直に結びつけるつもりはないんだけど、いま小学生に何が起こっているのか、はてまた小学校で何が起こっているのか、心配ではある。